「遺言書もスマホやパソコンで作れるようになるのでしょうか?」
「Wordで遺言書を作って、PDFで保存しておけば有効?」
「電子遺言が始まるというニュースを見たけれど、もう使えるの?」
遺言制度について、大きな法改正が行われました。
2026年6月17日、遺言制度や成年後見制度を見直す「民法等の一部を改正する法律」が成立し、同年6月24日に公布されました。
この改正で新しく創設されるのが、電子データなどで作成し、法務局で保管する**「保管証書遺言」**です。
これまで自筆証書遺言では、原則として遺言本文を本人が手書きする必要がありました。
新制度が始まれば、パソコン等で作成した遺言内容を利用できる新しい選択肢が加わります。
ただし、2026年10月現在、新しい保管証書遺言はまだ利用できません。
この記事では、遺言書のデジタル化で何が変わるのか、新制度はいつ始まるのか、そして現在利用できるデジタル化された遺言制度について解説します。
2026年に「電子遺言」のための法改正が成立
今回の改正の大きなポイントの一つが、保管証書遺言の創設です。
法務省は、今回の遺言制度の改正について、
- 電子データ等による遺言の作成
- 法務局での保管
- 自筆証書遺言などの押印要件の見直し
などを行うものと説明しています。
これまでの普通方式の遺言は、大きく、
- 自筆証書遺言
- 公正証書遺言
- 秘密証書遺言
でした。
改正後は、ここに新しく、
「保管証書遺言」
が加わります。法制審議会の要綱では、遺言の方式を「自筆証書、保管証書、公正証書または秘密証書」とする仕組みが示されています。
保管証書遺言とは?
保管証書遺言は、簡単にいうと、
自分で遺言内容を作成し、本人確認など一定の手続を経たうえで法務局に保管してもらう新しい遺言方式
です。
特徴的なのは、遺言内容について、
書面だけでなく電磁的記録による作成も可能になる
ことです。
つまり、従来の自筆証書遺言のように、
「遺言本文を全部自分の手で書く」
という方法だけではなくなります。
パソコンで遺言本文を作れるようになる
新しい保管証書遺言では、遺言の全文が記録された電子データを利用する方式が設けられます。
例えば将来的には、
パソコンで遺言内容を作成
↓
必要な署名・電子的措置等を行う
↓
法務局で本人確認等を受ける
↓
法務局で保管
という形が可能になります。
従来の自筆証書遺言と比べると、かなり大きな変更です。
「Wordで作って保存するだけ」で有効になるわけではない
ここは非常に重要です。
「電子遺言が解禁」
という言葉だけを見ると、
Wordで文章を作って、自分のパソコンに保存しておけば遺言書になる
と思ってしまうかもしれません。
そうではありません。
保管証書遺言では、一定の方式を守ったうえで、法務局による保管手続まで行うことが遺言の成立に必要とされています。
つまり、
パソコンで遺言を書けるようになること
と、
パソコンの中に遺言ファイルを置いておけばよいこと
は全く違います。
法務局で遺言内容を確認する手続もある
新制度では、単に電子ファイルを法務局へ送って終わりではありません。
遺言者は、原則として遺言書保管官の前で、作成した遺言の全文を口述する仕組みが設けられています。
これは、
「本人が本当にその内容で遺言しようとしているのか」
を確認する重要な手続です。
口がきけない方については、通訳人による申述や自書などを利用できる特則も設けられます。
財産目録まで全部読み上げる必要はない仕組み
財産目録については、法務局側が本人に閲覧させるなど所定の確認措置を行うことで、全文を口述しなくてもよい仕組みが設けられています。
財産が多い方にとっては実務的な仕組みです。
電子データは法務局で保管される
電子データによって作成された保管証書遺言については、法務局の遺言書保管ファイルへ記録して保管する仕組みになります。
書面で作られた保管証書遺言については法務局内で原本を保管し、電子データの場合にはその記録をシステム上で保管します。
したがって、
- 自宅のパソコンが壊れた
- USBメモリをなくした
- 家族がファイルを削除した
というような問題を避けやすくなります。
保管証書遺言はいつから使える?
ここが一番気になるところでしょう。
2026年6月24日に改正法は公布されましたが、保管証書遺言についてはすぐには施行されません。
法務省によると、
保管証書遺言の創設など、システム改修を必要とする改正は、公布日から3年を超えない範囲内で政令により定める日に施行
されます。
公布日は2026年6月24日です。
したがって、遅くとも法律上は、
2029年6月24日までの政令で定める日
に施行されることになります。
ただし、2026年10月現在、法務省の案内では具体的な施行日はまだ示されていません。
そのため、
「2027年から電子遺言が使える」
などと現時点で断定することはできません。
自筆証書遺言の「押印」も見直される
今回の改正では、新しい保管証書遺言だけでなく、従来の自筆証書遺言の方式も見直されます。
改正後は、自筆証書遺言について現在要求されている押印要件がなくなる方向です。
この押印の任意化等については、
公布日から1年を超えない範囲内で政令により定める日
に施行されます。
つまり2027年6月24日までには施行されることになりますが、保管証書遺言とは施行時期が別です。
2026年10月現在は、まだ押印が必要
ここは要注意です。
現在の自筆証書遺言では、遺言本文・日付・氏名を本人が自書し、押印することが必要です。
法務局の2026年3月更新の案内でも、現在の自筆証書遺言の要件として自書と押印が明記されています。
したがって、
「押印不要になる法律が成立したから、今日からハンコはいらない」
ではありません。
施行前と施行後を区別する必要があります。
現在、パソコンだけで自筆証書遺言を作れる?
2026年10月現在は、できません。
現行の自筆証書遺言では、
- 遺言本文
- 日付
- 氏名
について本人の自書が必要です。さらに現時点では押印も必要です。
一方、財産目録についてはパソコン作成が可能です。
例えば、
遺言本文
→本人が手書き
財産目録
→ExcelやWordで作成
という方法は現在でも利用できます。
ただし、自書ではない財産目録については、現在は所定の署名・押印が必要です。
関連記事:遺言書の財産目録の書き方|パソコン・Excelで作る方法と注意点
PDFの遺言書をパソコンに保存しておけば有効?
現時点では、それだけでは通常の自筆証書遺言として有効にはなりません。
例えば、
「私の財産はすべて妻に残します」
というWord文書を作り、
yuigon.pdf
としてパソコンへ保存しただけでは、現在の自筆証書遺言の方式を満たしません。
現行制度では本文等の自書と押印が要求されているためです。
同様に、
- メール
- LINE
- スマートフォンのメモ
- クラウド上の文書
に本人の希望を書いただけで、通常の遺言書として成立するわけではありません。
動画で「遺言」を残せば有効?
例えばスマートフォンで、
「自宅は妻へ、預金は長男へ渡してください」
と動画を撮影しておいた場合です。
本人の意思を確認する資料にはなるかもしれませんが、現在の普通方式の遺言として動画だけで遺言を成立させることはできません。
遺言は法律で定められた方式に従う必要があります。
そして今回成立した新しい保管証書遺言も、単に動画を残せばよい制度ではなく、作成した証書と法務局の保管手続を組み合わせる仕組みです。
では「今」利用できる遺言のデジタル化はない?
実はあります。
ここが少しややこしいところです。
公正証書遺言については、すでにデジタル化が始まっています。
2025年10月1日から公正証書の作成手続がデジタル化され、公正証書の原本は原則としてPDF形式の電磁的記録で作成される仕組みとなりました。
つまり、
公正証書遺言のデジタル化
と、
2026年の法改正による保管証書遺言
は別の制度です。
公正証書遺言はすでに電子データで作成されている
2025年10月以降、公証人が作成する公正証書は、原則として電子データで作成されます。
遺言者や証人はパソコン上で電子サインを行い、公証人が電子署名を付与して公正証書を完成させます。
完成した原本は、日本公証人連合会が運営するシステム内で保存されます。
これはすでに現在利用できる制度です。
公正証書遺言を自宅から作れる場合もある
公正証書のデジタル化により、一定の要件を満たせばWeb会議による作成も可能になっています。
日本公証人連合会によれば、
- 本人から申出がある
- 他の嘱託人に異議がない
- 公証人が相当と認める
などの要件を満たす場合に、リモート方式を利用できます。
2025年10月から全国の公証役場で順次Web会議による公正証書作成が可能になっています。
したがって、
「オンラインを使った遺言作成」という意味では、公正証書遺言の方がすでに先行している
ということになります。
ただし「完全オンラインで自由に遺言できる」わけではない
ここも誤解しやすいところです。
公正証書遺言のリモート作成でも、公証人が本人確認や遺言者の真意、判断能力などを確認します。
遺言者は証人2名の前で遺言内容を公証人へ伝え、公証人が内容を確認したうえで電子サイン等を行います。
そのため、
「ネット上のフォームに入力して送信すれば完成」
という仕組みではありません。
デジタル化されても、本人の最終意思を確認するという遺言制度の重要な部分は残っています。
現在の法務局保管制度も少しずつオンライン化している
現在の自筆証書遺言書保管制度についても、オンライン化の試行が進んでいます。
2026年2月から、39都道府県・68か所の遺言書保管所で、保管申請書類をPDFや画像でメール送信し、事前チェックを受けられる試行が行われています。
ただし、これはあくまで、
「提出書類の事前チェック」
です。
2026年10月現在の現行制度では、保管申請そのものについては本人が法務局へ出向くことが原則で、本人が病気等で出頭できない場合には現在の保管制度を利用できないと案内されています。
つまり、
メールでPDFを送れば法務局保管が完了する
わけではありません。
新制度ではオンライン手続も拡大する
2026年の改正では、保管証書遺言だけでなく、遺言書保管制度についてオンライン手続を拡大する仕組みも盛り込まれています。
改正法関連資料では、自筆証書遺言を含め、出頭や書類提出を要せず保管申請等を行える制度整備が示されています。
また保管証書遺言では、申出があり遺言書保管官が相当と認めた場合、映像・音声による方法で本人確認や口述を行うことができる仕組みも設けられています。
今後の制度が本格施行されれば、
「遺言を書く」だけでなく「法務局へ預ける手続」までデジタル化が進む
ことになります。
現在と将来を整理すると
制度がいくつもあるので、整理すると分かりやすくなります。
| 制度 | 2026年10月現在 |
|---|---|
| 自筆証書遺言 | 本文等は原則手書き・押印必要 |
| 財産目録 | パソコン作成可能 |
| 自筆証書遺言書保管制度 | 利用可能。保管申請は原則本人出頭 |
| 保管申請のメール事前チェック | 一部法務局で試行中 |
| 公正証書遺言の電子化 | すでに開始済み |
| 公正証書のリモート作成 | 一定の条件で利用可能 |
| 押印不要となる改正 | 成立済み・施行待ち |
| 新しい「保管証書遺言」 | 成立済み・施行待ち |
この違いを理解しておくことが重要です。
新しい電子遺言にはどんなメリットがありそう?
新制度には、いくつか大きなメリットが考えられます。
1.長い遺言書を手書きしなくてよくなる
現在の自筆証書遺言では、本文について自書が必要です。
財産や相続人が多い場合には、かなりの負担になります。
保管証書遺言では、電子データ等による作成が可能になるため、この負担が大きく減ります。
2.書き間違いを修正しやすい
手書きの自筆証書遺言では、訂正方法にも厳格なルールがあります。
パソコン等で原案を作成できれば、完成前の文章修正はしやすくなります。
3.法務局で保管される
自宅保管と異なり、
- 紛失
- 隠匿
- 改ざん
などのリスクを抑えやすくなります。
4.オンライン利用の可能性が広がる
将来的には、本人確認や口述についても一定の場合に映像・音声を利用する仕組みが導入されます。
高齢者や移動が難しい方にとって、制度利用の選択肢が広がる可能性があります。
デジタル化しても「内容を考える」部分はなくならない
ここは専門家側から見ると重要なところです。
遺言をパソコンで作れるようになっても、
「何を書けばよいのか」まで自動的に解決するわけではありません。
例えば、
- 誰が相続人なのか
- 遺留分はいくらあるのか
- 不動産を誰に残すのか
- 相続人以外への遺贈があるか
- 受取人が先に亡くなったらどうするか
- 遺言執行者を誰にするか
という問題は、紙でも電子でも同じです。
むしろパソコンで簡単に遺言書を作れるようになるほど、
「形式は整っているが、内容に問題のある遺言」
が増える可能性も考えておく必要があります。
AIで遺言書を作って、そのまま保存すればいい?
今後はこうした疑問も増えるでしょう。
AIを利用して、
「妻に自宅、長男に預金を残す遺言書を作って」
と原案を作ること自体は技術的には可能です。
しかし、AIが文章を作成しただけでは、
- 本人の家族関係
- 正確な財産内容
- 遺留分
- 税務
- 不動産登記
- 本人の真意
まで自動的に保証されるわけではありません。
また、現行法ではAIやパソコンで作った本文ファイルだけでは、自筆証書遺言として成立しません。
新制度施行後も、法定の方式と法務局での手続を守る必要があります。
AIは遺言内容を整理する道具にはなっても、法律上の遺言制度そのものを代替するものではありません。
今、遺言を作りたい人は新制度を待つべき?
基本的には、必要があるのに新制度の開始だけを理由に数年間待つ必要はありません。
保管証書遺言の具体的な施行日はまだ決まっておらず、法律上は公布から3年以内の政令で定める日に開始する制度です。
現在でも、
- 自筆証書遺言
- 自筆証書遺言+法務局保管
- 公正証書遺言
という選択肢があります。
特に、
- 高齢である
- 健康状態に不安がある
- 認知症が心配
- 家族関係が複雑
- 現在の意思を早く残しておきたい
という場合には、
「電子遺言が始まるまで待つ」こと自体がリスク
になる可能性があります。
遺言は後から変更・撤回することもできます。
そのため、現在必要であれば現在の制度で遺言を作り、新制度開始後に必要に応じて見直す方法もあります。
関連記事:遺言書は後から変更・撤回できる?複数の遺言書がある場合はどれが有効?
2026年10月現在、遺言を作るならどの方法?
大まかには次のように考えられます。
費用をできるだけ抑えたい
自筆証書遺言+法務局保管
が候補になります。
手書きでも問題なく、内容もシンプル
自筆証書遺言も選択肢です。
内容が複雑・確実性を重視したい
公正証書遺言を検討します。
現在は公正証書自体が電子化され、条件を満たせばリモート作成も可能です。
パソコンで本文を作る新方式を利用したい
保管証書遺言の施行を待つ必要があります。
現時点ではまだ利用できません。
まとめ
2026年6月、遺言制度を大きく見直す法律が成立し、新しい**「保管証書遺言」**が創設されることになりました。
新制度では、電子データ等で作成した遺言を利用し、本人確認や口述など所定の手続を経て法務局で保管する仕組みが導入されます。
ただし、2026年10月現在はまだ利用できません。
ポイントを整理すると、
- 2026年6月に遺言制度の改正法が成立
- 電子データ等を利用する「保管証書遺言」が新設される
- 保管証書遺言は法務局での保管が必要
- WordやPDFを自宅で保存しただけでは遺言にはならない
- 保管証書遺言の施行は公布から3年以内の政令で定める日
- 自筆証書遺言の押印要件も見直されるが、2026年10月現在はまだ押印が必要
- 公正証書遺言については2025年10月からすでにデジタル化されている
- 現在の自筆証書遺言保管制度でもオンラインの事前チェックが試行されている
という状況です。
遺言制度は、今まさに大きく変わりつつあります。
しかし、デジタル化されても、
「誰に何を残すのか」
「遺留分をどう考えるのか」
「誰が遺言を実行するのか」
という遺言の本質は変わりません。
はいしま行政書士事務所では、
「今遺言を作るべきか、新制度を待った方がいいのか」
「自筆証書遺言と公正証書遺言のどちらがよいか」
「法務局の保管制度を利用したい」
といった段階からご相談いただけます。
現在利用できる制度と今後予定されている制度を整理しながら、ご本人の状況に適した遺言方法を一緒に検討いたします。
※本記事は2026年10月1日時点の法令・公的機関の公表情報に基づいています。保管証書遺言や押印要件の見直しについては今後政令等により具体的な施行日・手続の詳細が定められるため、実際に利用する際には最新情報をご確認ください。
参考リンク
法務省「民法等の一部を改正する法律(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」
法務省の改正法案内を見る
法務省「自筆証書遺言書保管制度について」
法務局の遺言書保管制度を見る
日本公証人連合会「公正証書のデジタル化」
公正証書のデジタル化を見る
遺言書作成について詳しく知りたい方へ
遺言書は、家族構成や財産の内容によって、適した作成方法が異なります。
「自筆証書遺言と公正証書遺言、どちらを選べばいい?」
「自分の場合、遺言書を作った方がいい?」
「行政書士に依頼すると、どこまでサポートしてもらえる?」
このような疑問がある方は、遺言書作成サポートのページをご覧ください。
自筆証書遺言・公正証書遺言の違い、料金、ご相談から作成までの流れをまとめています。
