「最近、親が同じ話をすることが増えた」
「銀行や役所の手続きを面倒がるようになった」
「昔とは少し性格が変わった気がする」
そんな変化を感じながらも、
「まだ普通に生活しているから大丈夫だろう」
と思っている方は多いのではないでしょうか。
認知症について考えるのは、できればもっと先にしたい。
それが自然な気持ちだと思います。
しかし、認知症は本人の健康だけの問題ではありません。
預貯金や不動産の管理。
介護サービスの契約。
将来どこで暮らすのか。
誰に何を任せたいのか。
そして相続や遺言。
認知機能が低下すると、さまざまな問題が家族にも関係してきます。
だからこそ、まず知っておきたいのが、
「認知症は一つではない」
ということです。
今回は代表的な4つの認知症を知ったうえで、「まだ元気な今だからできること」について考えてみます。
「認知症=アルツハイマー」ではありません
認知症は特定の一つの病名ではなく、さまざまな病気によって認知機能が低下し、生活に支障が生じる状態です。
代表的な原因疾患として、
・アルツハイマー型認知症
・血管性認知症
・レビー小体型認知症
・前頭側頭型認知症
があり、国立長寿医療研究センターではこれらを「認知症の4大疾患」としています。
種類によって、症状の現れ方にも違いがあります。
「食べたもの」ではなく「食べたこと」を忘れる――アルツハイマー型認知症
認知症の中で最も多いのがアルツハイマー型認知症です。
初期には、最近起こった出来事を覚えていられない記憶障害が目立ち、比較的ゆっくり進行します。
たとえば、
「昨日、何を食べたっけ?」
ではなく、
「食事なんてしていない」
と、食べた出来事そのものを覚えていない。
こうした変化がみられることがあります。
進行すると、時間や場所についての認識にも影響が出てきます。
脳梗塞などをきっかけに進行する――血管性認知症
血管性認知症は、脳梗塞や脳出血などによって生じます。
脳のどの部分が障害されたかによって症状が異なり、脳血管障害を繰り返すことで段階的に悪化する場合があります。
そのため、
「できること」と「できないこと」の差がみられる場合があります。
昨日まで普通にできていたことが、ある時期から難しくなる。
そうした経過をたどることもある認知症です。
幻視や身体症状が現れることも――レビー小体型認知症
レビー小体型認知症では、
「知らない人が部屋にいる」
「そこに動物がいる」
など、実際には存在しないものが見える「幻視」が特徴的な症状の一つです。
さらに、
・手足が震える
・筋肉がこわばる
・動作が遅くなる
・小刻みに歩く
・転びやすくなる
など、パーキンソン病に似た身体症状が現れることもあります。
認知機能の状態に変動がみられることもあり、「調子のよい日と悪い日がある」ように家族から見える場合があります。
「性格が変わった」と感じることも――前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症では、物忘れより先に、性格や行動の変化が目立つことがあります。
たとえば、
・感情を抑えにくくなる
・社会のルールを守れなくなる
・同じ行動を繰り返す
・以前では考えられなかった行動をする
といった変化です。
家族からすると、
「最近、頑固になった」
「人が変わった」
と感じるかもしれません。
しかし、それを単なる性格の変化だけで説明できない場合もあります。
「認知症と診断された=何も契約できない」ではありません
ここからは、行政書士として特にお伝えしたいところです。
認知症と診断されたからといって、その瞬間から一律にあらゆる契約ができなくなるわけではありません。
法律上重要になるのは、その人が「認知症という診断名を持っているか」だけではなく、個々の法律行為について必要な判断能力があるかどうかです。
民法第3条の2では、法律行為をした時に意思能力がなかった場合、その法律行為は無効とされています。
認知症にも種類や程度があり、状態にも個人差があります。
ですから、
「認知症だから全部できない」
あるいは反対に、
「普通に会話できているから何でも大丈夫」
と単純に判断することはできません。
判断能力が低下すると、家族だけではできないことが出てきます
これは実際に高齢の親を支える場面で、とても重要な問題です。
たとえば親名義の預貯金や不動産があったとしても、
「子どもだから」
という理由だけで、当然に本人に代わって自由に契約や処分ができるわけではありません。
認知症などによって判断能力が十分ではなくなった方を法律的に支援する仕組みの一つが成年後見制度です。
成年後見制度には、判断能力の程度に応じた「後見・保佐・補助」のほか、本人が判断能力のあるうちに将来の支援者や支援内容を決めておく「任意後見」があります。
ここで重要なのが、
「元気なうち」と「判断能力が低下した後」では、選択できる方法が違ってくる
ということです。
「まだ大丈夫」な今だから、本人の希望を聞くことができる
親の老後について、
「財産はどうする?」
「認知症になったらどうする?」
と突然聞くのは、なかなか難しいものです。
だから最初から法律の話をする必要はないと思います。
たとえば、
「将来、一人で暮らせなくなったらどうしたい?」
「施設に入るなら、この辺がいい?」
「通帳や書類はどこにまとめてある?」
「もし自分で手続きできなくなったら、誰に任せたい?」
そんな日常的な会話からでも十分です。
大切なのは、本人が自分の希望を伝えられるうちに聞いておくことです。
判断能力が低下してからでは、
「本人ならきっとこうしたかったはず」
と家族が推測しなければならなくなることがあります。
元気なうちであれば、本人自身が選べます。
この違いはとても大きいと思います。
必ずしも認知症とは限りません
なお、認知機能の低下がみられたからといって、すべてが進行性の認知症とは限りません。
正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫、甲状腺疾患、ビタミン欠乏などでも認知機能の低下が現れ、原因を治療することで改善が期待できる場合があります。
「年だから仕方ない」
「認知症に違いない」
と家族だけで決めつけず、気になる変化があれば、まず医療機関に相談することが大切です。
医療的な診断が必要な問題と、法律や生活の準備の問題は分けて考える必要があります。
認知症への備えは、「財産を守る」だけではありません
任意後見や遺言などというと、
「お金持ちのための話」
と思われるかもしれません。
しかし、本来考えておきたいのは財産の額だけではありません。
どこで生活したいのか。
誰に支えてほしいのか。
自宅をどうしたいのか。
介護費用をどのように支払うのか。
亡くなった後のことを誰にお願いしたいのか。
そうしたことを自分自身で決めておくことも、老後への備えです。
だからこそ、
「認知症になってから考える」
ではなく、
「認知症について考えられるうちに考えておく」
ことに意味があります。
無関係ではいられないからこそ、まず知ることから
自分が年齢を重ねれば、親も年齢を重ねます。
認知症は、ある日突然「他人事」から「自分事」に変わる問題ではありません。
少しずつ近づいてくる問題です。
だからといって、必要以上に不安になることもありません。
まず、
「認知症にはいくつかの種類がある」
「症状の現れ方も違う」
「認知症と判断能力は同じ意味ではない」
「判断能力が十分なうちだから選べる準備もある」
このことを知っておくだけでも違います。
そして、
「そろそろ家族で話しておこうかな」
と思ったとき。
それが、老後について考え始める一つのタイミングなのかもしれません。
