自筆証書遺言の書き方|無効にしないためのポイントを行政書士が解説

「自分で遺言書を書いておきたい」
「できれば費用を抑えて準備したい」

このように考えたとき、まず候補になるのが自筆証書遺言です。

自筆証書遺言は、自分ひとりで作成できる点が大きな特徴です。もっとも、手軽に作れる反面、法律で定められた方式を守れていないと、遺言書の効力が問題になる可能性があります。 法務省・法務局も、自筆証書遺言については、全文・日付・氏名の自書や押印など、守るべきルールがあることを案内しています。
→ 法務省「遺言書の様式等についての注意事項」

この記事では、自筆証書遺言の基本的な書き方と、無効やトラブルを避けるためのポイントを、行政書士の視点からわかりやすく解説します。

自筆証書遺言とは

自筆証書遺言とは、遺言者本人が作成する遺言書です。

民法上、自筆証書遺言は、原則として

  • 全文
  • 日付
  • 氏名

を遺言者本人が自書し、これに押印して作成します。もっとも、現在は財産目録については自書でなくてもよいとされており、パソコンで作成したものや、登記事項証明書・通帳のコピーなどを添付する方法も認められています。

手軽に作れる一方で、方式を満たしていなければ問題が生じるため、「とりあえずメモを書いておけば大丈夫」というものではありません。→ 東京法務局「遺言書を作成するときの注意点」

自筆証書遺言を書く前に整理しておきたいこと

自筆証書遺言は、いきなり書き始めるより、先に内容を整理した方が失敗しにくくなります。

1.自分の相続人は誰か

まず確認したいのは、自分が亡くなったときに誰が相続人になるのかです。

配偶者がいるのか、子どもがいるのか、再婚家庭なのか、子どもがいないのかによって、相続関係は変わります。

ここが曖昧なまま書くと、

「本当は妻に全部残したかったのに、兄弟姉妹も関わることになった」
「前婚の子どもへの配慮が抜けていた」

といったことが起こり得ます。

2.どんな財産があるのか

次に、財産を整理します。

例えば、

  • 不動産
  • 預貯金
  • 株式
  • 自動車
  • 事業用資産
  • 貸付金
  • 貴金属等

です。

遺言書は「気持ち」を書くだけでは足りません。
どの財産を、誰に、どう承継させるのかを具体的に考える必要があります。

3.誰に何を残したいのか

相続人に相続させるのか、相続人以外の人に遺贈するのかでも書き方は変わります。

また、特定の相続人に多く財産を残したい場合には、遺留分への配慮が必要になることもあります。

自筆証書遺言の基本的な書き方

ここからは、自筆証書遺言を書く際の基本ポイントを順に見ていきます。

自筆証書遺言を書くときのポイント

1.全文・日付・氏名を自分で書き、押印する

最も基本となるルールです。

法務局も、自筆証書遺言を作成する際は、

  • 遺言書の全文
  • 遺言の作成日付
  • 遺言者氏名

を必ず自書し、押印する必要があると案内しています。

特に日付は重要で、

  • 「令和8年9月15日」
  • 「2026年9月15日」

のように、特定できる日付で記載する必要があります。

「令和8年9月吉日」
「誕生日の日」
といった曖昧な書き方は避けた方がいいです。

2.財産目録はパソコン作成でもよいが、ルールがある

自筆証書遺言では、財産目録については自書でなくても構いません。

例えば、

  • パソコンで作成した財産一覧
  • 不動産の登記事項証明書
  • 預金通帳のコピー

などを添付することができます。

ただし、自書ではない財産目録を添付する場合には、その各ページに署名・押印が必要です。法務局もこの点を注意事項として明示しています。

ここを落とすと、せっかく添付した財産目録の扱いで問題になりかねません。

3.「誰に何を渡すか」を具体的に書く

遺言書では、表現が曖昧だと後で困ります。

例えば、

  • 「財産は妻に任せる」
  • 「家は長男に」
  • 「預金は適当に分ける」

といった書き方では、解釈が分かれるおそれがあります。

できるだけ、

  • 誰に
  • どの財産を
  • どう承継させるのか

が明確になるように書きます。

たとえば、次のような書き方です。

遺言者は、遺言者が所有する下記不動産を、妻〇〇に相続させる。
遺言者は、〇〇銀行〇〇支店の普通預金口座(口座番号〇〇)を、長男〇〇に相続させる。

このように、対象財産を具体的に特定するのが基本です。

4.不動産や預貯金はできるだけ正確に特定する

特に注意したいのが、不動産と預貯金です。

不動産

土地・建物は、住所ではなく、できれば登記事項証明書の表示に合わせて書く方が安全です。

預貯金

金融機関名、支店名、口座種別、口座番号などを整理しておくと、後の手続がスムーズになります。

ここを曖昧にすると、

「どの不動産のことか分からない」
「どの口座を指しているのか不明」

となり、遺言の実行段階で支障が出ることがあります。

5.相続人以外に渡す場合は「遺贈」の意識が必要

例えば、

  • 内縁の配偶者
  • お世話になった人
  • 子の配偶者
  • 支援したい団体

などに財産を渡したい場合、法定相続人ではないことがあります。

その場合は、単に気持ちを書くのではなく、その人に財産を遺贈する意思が分かるように書くことが重要です。

ここは言葉の選び方次第で意味合いがぶれやすいので、慎重に考えるべき部分です。

6.遺言執行者を定めることも検討する

遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために手続を行う人です。

必ずしも全ての遺言で必要というわけではありませんが、

  • 相続人以外への遺贈がある
  • 内容が複雑
  • 相続人同士の関係に不安がある

といった場合には、遺言執行者を決めておいた方がよいことがあります。

遺言書の中で指定しておけば、遺言の実行が比較的進めやすくなります。

7.付言事項を添えるのも有効

遺言書には、法的効力を持つ本文とは別に、付言事項を添えることもあります。

例えば、

  • なぜその分け方にしたのか
  • 家族への感謝
  • 相続人同士で争わないでほしいという思い

などです。

付言事項自体に法的拘束力はありませんが、本人の気持ちを伝える意味があります。法務局でも付言事項付きの文例集を案内しています。→ 函館地方法務局「自筆証書遺言書の文例集」

もっとも、感情的な内容を書きすぎると、かえって火種になる場合もあるので、穏当な表現が無難です。

自筆証書遺言でよくある失敗

自筆証書遺言では、次のような失敗がよく見られます。

1.日付が曖昧

「○年○月吉日」のように、特定できない日付にしてしまう。

2.本文を自書していない

本文をパソコンで作ってしまう。

3.財産の記載が曖昧

「預金全部」「土地全部」など、対象が不明確。

4.訂正方法が自己流

二重線や書き直しをしているが、法定の訂正方式を満たしていないおそれがある。

5.内容だけ整えて満足してしまう

保管方法や、相続開始後の手続まで考えていない。

法務局も、遺言書作成時の注意点として、方式を守ることや、訂正には決まったルールがあることを案内しています。

訂正は自己流でやらず、迷ったら書き直した方が安全

自筆証書遺言は、訂正にもルールがあります。

この点は思っている以上に厳格で、自己流で直すと、後で問題になる可能性があります。東京法務局も、遺言書の誤りを修正する場合には定められた方式があり、安易な修正には注意が必要であることを案内しています。【turn490478search4】

実務的には、軽微なミスに見えても、不安があるなら書き直した方が安全です。

自筆証書遺言は何度でも作り直すことができます。
古い遺言書と新しい遺言書が併存すると混乱のもとになるため、作り直した後の管理も大切です。

自宅保管だけでなく、法務局の保管制度も検討したい

自筆証書遺言は、自宅保管だと

  • 紛失
  • 改ざん
  • 発見されない
  • 相続開始後に家庭裁判所の検認が必要

といった問題があります。

この点を補う制度として、法務局の自筆証書遺言書保管制度があります。法務局の案内でも、この制度は自筆証書遺言の紛失や改ざん、発見されないといったデメリットの解消に役立つとされています。→ 法務省「自筆証書遺言書保管制度について」

また、保管制度を利用する場合、法務局で民法上の方式に適合するかについて外形的なチェックを受けることができ、家庭裁判所の検認も不要になります。→ 東京法務局「自筆証書遺言書保管制度とは?」

もっとも、この制度を使っても、遺言内容の妥当性や遺留分への配慮まで法務局が判断してくれるわけではありません。

ここは誤解しやすい点です。

自筆証書遺言は「書ける」ことと「使える」ことが違う

自筆証書遺言は、自分で作れる点が魅力です。

ただし、

  • 方式を満たしているか
  • 財産の記載が十分か
  • 誰に何を残したいのかが明確か
  • その内容で本当に希望を実現できるか

は別問題です。

つまり、書けることと、実際に相続の場面で使えることは同じではありません。

費用を抑えたいからといって内容の検討が甘くなると、かえって相続開始後に家族が困る可能性があります。

まとめ

自筆証書遺言を書く際のポイントは、次のとおりです。

  1. 全文・日付・氏名を自書し、押印する
  2. 財産目録を自書しない場合は各ページに署名・押印する
  3. 誰に何を渡すのかを具体的に書く
  4. 不動産や預貯金は正確に特定する
  5. 相続人以外に渡す場合は表現に注意する
  6. 必要に応じて遺言執行者を定める
  7. 訂正は自己流で行わず、必要なら書き直す
  8. 保管方法まで考え、法務局の保管制度も検討する

自筆証書遺言は、うまく使えば有効な生前準備になります。

一方で、少しの曖昧さや方式ミスが、後の手続に影響することもあります。

はいしま行政書士事務所では、自筆証書遺言の作成について、

  • 自分の場合に遺言が必要か
  • どのように書けばよいか
  • 内容として何を整理すべきか
  • 法務局保管を利用した方がよいか

といった点も含めてご相談いただけます。

「自分で書こうと思っているけれど、この内容で大丈夫か不安」
という段階でも、お気軽にご相談ください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法的判断を示すものではありません。相続関係や財産内容によって適切な対応は異なります。


参考リンク


遺言書作成について詳しく知りたい方へ

遺言書は、家族構成や財産の内容によって、適した作成方法が異なります。

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