「一度遺言書を作ったら、もう変更できないのでしょうか?」
遺言書を作る際、この点を心配される方は少なくありません。
例えば、
「今は長男に自宅を残したいけれど、10年後に気持ちが変わるかもしれない」
「公正証書遺言を作った後に財産状況が変わった」
「古い遺言書と新しい遺言書が2通ある」
といったことは十分に考えられます。
結論からいうと、遺言書は、遺言者本人が生きていて遺言能力がある限り、いつでも変更・撤回することができます。
民法1022条では、遺言者はいつでも、遺言の方式に従って、その全部または一部を撤回できるとされています。日本公証人連合会も、遺言はいつでも、何回でも変更・撤回できると案内しています。 日本公証人連合会
この記事では、
- 遺言書を後から変更する方法
- 公正証書遺言も変更できるのか
- 遺言書が2通以上ある場合の考え方
- 財産を売却した場合
- 古い遺言書の扱い
について解説します。
遺言書は何回でも変更できる
遺言書は、
「一度作ったら変更できない契約書」
ではありません。
本人の最終的な意思を尊重する制度なので、遺言者は生前であれば、原則として何度でも内容を変更できます。
例えば、
60歳 妻に全財産を相続させる遺言を作成
↓
65歳 長男に自宅を相続させたいと考え直す
↓
70歳 財産状況が変わり、再度遺言を書き直す
ということも可能です。
「将来気が変わるかもしれないから、今は遺言を書かない」
と考える必要はありません。
むしろ、現在の意思をいったん形にしておき、状況が変われば見直すという考え方もできます。
遺言を変更するときも「遺言の方式」が必要
ここは重要です。
遺言内容を変えたいからといって、
「前の遺言はもうやめます」
と家族に口頭で伝えるだけでは、通常、正式な遺言の撤回にはなりません。
日本公証人連合会は、遺言の変更・撤回について、新たな遺言の方式に従って行う必要があると説明しています。
つまり、遺言を変更するのであれば、
- 新しい自筆証書遺言を作る
- 新しい公正証書遺言を作る
など、法律上の方式を守ります。
自筆証書遺言を作り直す方法
例えば以前、
自宅を長男〇〇に相続させる。
と書いていたものを、
自宅を妻〇〇に相続させる。
へ変更したい場合です。
新しく有効な自筆証書遺言を作ることで変更できます。
自筆証書遺言では、原則として、
- 本文
- 日付
- 氏名
を本人が自書し、押印するなど、法律上の方式を守る必要があります。
単に古い遺言書へ赤ペンで書き足すような方法は避けた方が安全です。
公正証書遺言も変更・撤回できる
「公正証書遺言は公証役場で作った正式な書類だから、変更できないのでは?」
と思われることがあります。
しかし、公正証書遺言も変更・撤回できます。
日本公証人連合会も、公正証書遺言を含め、遺言はいつでも変更・撤回できると説明しています。
公正証書遺言を変更するなら、また公正証書にする必要がある?
必ずしもそうではありません。
日本公証人連合会によれば、遺言の変更・撤回は新たな遺言によって行いますが、前の遺言と同じ種類である必要はありません。
つまり、
以前:公正証書遺言
↓
後から:自筆証書遺言
という形で変更することも法律上は可能です。
反対に、
以前:自筆証書遺言
↓
後から:公正証書遺言
とすることもできます。
公正証書遺言を自筆証書遺言で変更してもいい?
法律上は可能です。
ただし、実務的には注意が必要です。
公正証書遺言は公証役場に原本が保管されています。
その後、自宅で新しい自筆証書遺言を書いた場合、相続開始後に、
「公正証書遺言と自筆証書遺言の両方がある」
という状況になります。
さらに新しい自筆証書遺言について、
- 方式を満たしているか
- 本当に本人が書いたのか
- 遺言能力があったのか
などが争われる可能性もあります。
そのため、以前の公正証書遺言を大幅に変更するのであれば、新しい公正証書遺言を作り直す方法も検討した方が分かりやすいでしょう。
遺言書が2通あったら新しい方が有効?
ここは非常に重要です。
よく、
「遺言書が2通あれば、新しい方だけが有効」
と思われています。
しかし、正確には少し違います。
民法1023条では、前の遺言と後の遺言が抵触する場合、
抵触する部分について、後の遺言によって前の遺言が撤回されたものとみなす
とされています。
つまり、
新しい遺言ができたから、古い遺言が自動的に全部消えるとは限りません。
具体例で考えてみましょう
1通目の遺言
2023年に、
第1条 自宅を長男に相続させる。
第2条 〇〇銀行の預金を長女に相続させる。
という遺言を書いたとします。
その後、2026年に、
自宅を妻に相続させる。
という新しい遺言を作りました。
この場合、
自宅について
古い遺言:長男
新しい遺言:妻
となり、内容が抵触しています。
そのため、自宅については原則として後の遺言が優先します。
一方、
〇〇銀行の預金を長女に相続させる
という部分については、新しい遺言では何も触れていません。
そのため、その部分は古い遺言が残る可能性があります。
つまり、
古い遺言+新しい遺言
の両方を読まなければ、最終的な遺言内容が分からなくなることがあります。
作り直すなら「前の遺言を全部撤回する」と明記する方法もある
遺言全体を作り直す場合には、新しい遺言書で、
遺言者は、これまでにした一切の遺言を撤回し、次のとおり遺言する。
などと記載し、過去の遺言との関係を明確にする方法があります。
こうすることで、
「この部分は古い遺言が残っているのか?」
という解釈問題を減らしやすくなります。
もちろん、その新しい遺言書自体が法律上有効に作成されていることが前提です。
一部だけ変更することもできる
遺言は全部を撤回するだけでなく、一部だけ変更することもできます。
例えば、
以前の遺言
自宅 → 長男
預金 → 長女
株式 → 妻
だったところ、
「自宅だけ妻へ変えたい」
という場合です。
新しい遺言でその部分だけ変更することもできます。
ただし、遺言書が何通も増えていくと、
「どの内容が現在有効なのか」
が分かりにくくなります。
そのため変更箇所が多い場合には、遺言書全体を作り直した方が整理しやすいことがあります。
古い遺言書は破って捨てればいい?
自筆証書遺言については、遺言者本人が故意に遺言書を破棄した場合、民法上、その破棄した部分について遺言を撤回したものとみなされることがあります。民法1024条に規定があります。
しかし、
「古い遺言を破ればすべて解決」
と考えるのはおすすめしません。
例えば、
- コピーが残っている
- 複数の遺言が存在する
- 本当に本人が撤回目的で破棄したのか争われる
- 公正証書遺言の謄本だけを破棄した
など、状況によって問題が複雑になります。
特に公正証書遺言は原本が公証役場に保管されています。
そのため、古い遺言を確実に変更したい場合には、新しい有効な遺言で撤回・変更内容を明確にする方が安全です。
遺言を書いた後に財産を売ったらどうなる?
例えば、
A土地を長男に相続させる。
という遺言を作った後、本人が生前にA土地を売却した場合です。
民法1023条2項では、遺言後の生前処分などが遺言内容と抵触する場合についても、抵触部分の撤回と同様の扱いをします。
つまり、
遺言を書いたから、その財産を一生持ち続けなければならないわけではありません。
遺言者本人は生前、自分の財産を処分することができます。
遺言で指定していた預金口座を解約したら?
例えば、
〇〇銀行大宮支店の普通預金を長女に相続させる。
と書いた後、その口座を生前に解約したケースです。
死亡時にその口座が存在しなければ、そのまま遺言内容を実現できない可能性があります。
だからこそ、
- 不動産を売却した
- 銀行口座を解約した
- 証券会社を変更した
- 財産が大きく増減した
という場合には、遺言書を一度確認した方がよいでしょう。
受取人が先に亡くなった場合も見直しが必要
例えば、
全財産を妻に相続させる。
という遺言を作った後、妻が先に亡くなった場合です。
「妻が亡くなったなら、自動的に長男が受け取る」
とは限りません。
そのため、
妻が遺言者より先に死亡した場合には、全財産を長男に相続させる。
といった予備的遺言をあらかじめ設ける方法があります。
相続人や受遺者が亡くなった場合は、遺言を見直す大きなタイミングです。
遺言書を見直した方がいいタイミング
遺言書には一般的な有効期限がありません。
そのため、一度作った遺言が長期間残る可能性があります。
次のような変化があった場合には、内容を確認することをおすすめします。
- 配偶者が亡くなった
- 子どもや受遺者が亡くなった
- 結婚・離婚・再婚した
- 孫が生まれた
- 不動産を購入した
- 不動産を売却した
- 預貯金・株式などが大きく変わった
- 家族との関係が変わった
- 遺言執行者が高齢になった、亡くなった
- 自分の考えが変わった
日本公証人連合会も、家族関係や財産内容が変化した場合には、遺言の変更や書き直しを検討することを案内しています。
「5年に1回」など定期的に変更する必要はある?
法律上、
「5年ごとに作り直さなければならない」
という決まりはありません。
何も変わっていなければ、そのままでも構いません。
ただし、
数年に一度、現在の家族・財産・本人の希望と遺言内容が一致しているかを確認する
という意味で、定期的に読み返すのは有効です。
特に70代以降など、家族や財産状況が変化しやすい時期には、確認しておくと安心です。
撤回した遺言は、撤回をやめれば元に戻る?
ここは少し専門的です。
民法1025条では、一定の方法で撤回された遺言について、その撤回行為をさらに撤回しても、原則として元の遺言が自動的に復活するわけではないというルールがあります。
つまり、
古い遺言
↓
新しい遺言で撤回
↓
さらに新しい遺言で「2通目を撤回」
とすれば、
「では1通目が自動復活する」
と単純には考えない方がよいということです。
遺言が何度も変更されている場合は、かなり分かりにくくなります。
この場合には、現在の意思を一つの新しい遺言書へまとめ直す方が明確です。
「撤回しない」という約束はできる?
民法では、遺言者は遺言を撤回する権利を放棄することができないとされています。
つまり、
「この遺言は絶対に変更しません」
と約束していたとしても、法律上、遺言者本人には撤回する自由があります。
これは、遺言では本人の最終意思を尊重することが基本だからです。
公正証書遺言を作り直すメリット
以前、公正証書遺言を作った方が大きく内容を変更する場合には、新しい公正証書遺言へ作り直す方法があります。
メリットとしては、
- 公証人が新しい意思を確認する
- 内容を整理できる
- 過去の遺言との関係を明確にできる
- 原本が公証役場で保管される
などがあります。公正証書遺言の原本は公証役場で保管されます。
ただし、公正証書遺言を新しく作成するため、公証人手数料などは再度必要になります。
自筆証書遺言を書き直すときの注意点
自筆証書遺言を作り直す場合には、
日付を明確にする
複数の遺言がある場合、作成年月日は非常に重要です。
「令和8年10月吉日」
のような曖昧な日付は避けます。
古い遺言との関係を明確にする
全部変更するのであれば、過去の遺言を撤回する旨を記載する方法があります。
財産の変化を確認する
現在存在しない預金口座や売却済み不動産が記載されていないか確認します。
相続人が変わっていないか確認する
死亡・結婚・離婚・養子縁組などによって相続関係が変わっていることがあります。
複数の遺言書が見つかった相続人はどうすればいい?
亡くなった後、
「父の机から2018年の遺言書が見つかった」
「その後、2024年の遺言書も見つかった」
ということがあります。
この場合、
新しい方だけを読んで古い方を捨てる
のは避けましょう。
新しい遺言が古い遺言の全部を撤回しているとは限らないためです。民法上、まず問題になるのは両者が抵触している部分です。
また、自筆証書遺言で検認が必要なものについては、家庭裁判所での検認手続も問題になります。
関連記事:遺言書の検認とは?必要書類・流れ・期限・開封してしまった場合を解説
遺言書は「作って終わり」ではない
遺言書は作成した時点では、
「これが自分の希望だ」
と思っていても、人生は変化します。
- 家族が変わる
- 財産が変わる
- 人間関係が変わる
- 自分の考えも変わる
ことがあります。
そのため、遺言書は、
一度作成して金庫へ入れ、二度と見ない書類
ではありません。
本人の現在の意思と合っているか、ときどき確認することが大切です。
まとめ
遺言書は、一度作ったら変更できないものではありません。
遺言者本人は、遺言能力がある限り、いつでも、何回でも遺言の全部または一部を撤回・変更できます。
特に重要なのは次の点です。
- 遺言はいつでも変更・撤回できる
- 変更・撤回も遺言の方式で行う
- 公正証書遺言も変更できる
- 公正証書遺言を自筆証書遺言で変更することも可能
- 新しい遺言があっても古い遺言全部が自動的に無効になるとは限らない
- 前後の遺言が抵触する部分については、原則として後の遺言が優先する
- 生前に遺言対象の財産を処分した場合も遺言内容に影響することがある
- 財産・家族・本人の考えが変わったら遺言を見直す
という点です。
特に遺言書を何度か作り直している場合、
「現在、どの遺言がどこまで有効なのか」
が分かりにくくなることがあります。
そのため、大幅に内容を変更するのであれば、細かな修正を積み重ねるより、現在の意思を新しい1通の遺言書として整理し直す方が分かりやすいでしょう。
はいしま行政書士事務所では、
「昔作った遺言書を書き直したい」
「公正証書遺言を変更したい」
「古い遺言と新しい遺言の関係が分からない」
「財産が変わったので一度内容を確認したい」
といった段階からご相談いただけます。
現在の相続関係や財産状況、ご本人の希望を改めて整理し、今の意思に合った遺言書作成をサポートいたします。
※本記事は2026年10月時点の法令・制度に基づく一般的な情報です。複数の遺言書が存在する場合の具体的な効力は、それぞれの遺言内容や作成方式等によって異なります。
参考リンク
日本公証人連合会「遺言の取消し(撤回)や変更は自由にできますか?」
遺言書作成について詳しく知りたい方へ
遺言書は、家族構成や財産の内容によって、適した作成方法が異なります。
「自筆証書遺言と公正証書遺言、どちらを選べばいい?」
「自分の場合、遺言書を作った方がいい?」
「行政書士に依頼すると、どこまでサポートしてもらえる?」
このような疑問がある方は、遺言書作成サポートのページをご覧ください。
自筆証書遺言・公正証書遺言の違い、料金、ご相談から作成までの流れをまとめています。

