遺言執行者とは?必要なケース・できること・誰を選べばいい?

遺言書について調べていると、

「遺言執行者を指定しておきましょう」

という説明を目にすることがあります。

しかし、

「遺言執行者って何をする人?」
「必ず決めないといけないの?」
「長男を指定してもいい?」
「行政書士などの専門家に頼んだ方がいい?」

と疑問に思う方も多いでしょう。

遺言執行者とは、簡単にいうと、

遺言書に書かれた内容を、本人が亡くなった後に実際の手続として実現する人

です。

裁判所も、遺言執行者を「遺言の内容を実現する者」と説明しています。

遺言書は、書いただけで自動的にすべての手続が完了するわけではありません。

例えば、

  • 預貯金の解約や払戻し
  • 遺贈の実行
  • 相続財産の整理
  • 遺言内容に沿った各種手続

など、本人が亡くなった後に実際の事務が必要になります。

この記事では、遺言執行者とはどのような人なのか、どんな権限・義務があるのか、必要となるケース、誰を選べばよいのかについて解説します。

もくじ
  1. 遺言執行者とは?
  2. 遺言執行者は必ず必要?
  3. 遺言執行者が特に重要なケース
    1. 1.相続人以外の人に財産を遺贈する
    2. 2.相続人同士の関係が良くない
    3. 3.財産の種類が多い
    4. 4.遺言による認知をする場合
    5. 5.遺言で推定相続人を廃除する場合
  4. 遺言執行者は何をする?
  5. 遺言執行者の主な仕事
    1. 1.相続人に遺言内容を知らせる
    2. 2.相続財産を確認する
    3. 3.遺贈を実行する
    4. 4.金融機関などの手続を行う
    5. 5.必要に応じて専門家と連携する
  6. 遺言執行者には強い権限がある
  7. 遺言執行者は誰でもなれる?
  8. 相続人を遺言執行者にしても大丈夫?
  9. どんな人を遺言執行者に選べばいい?
  10. 家族を選ぶメリット・デメリット
    1. メリット
    2. デメリット
  11. 専門家を遺言執行者にするメリット
  12. 遺言執行者の報酬はいくら?
  13. 遺言執行者を指定するには?
  14. 指定された人は必ず引き受けなければならない?
  15. 遺言執行者を指定していなかったらどうなる?
  16. 遺言執行者がいると相続人は何もしなくていい?
  17. 遺言執行者を決めるときの注意点
    1. 「一番財産をもらう人」を自動的に選ばない
    2. 高齢の人だけを指定しない
    3. 本人の承諾を事前に確認する
    4. 予備の方法も考える
  18. どんな場合に専門家を指定した方がいい?
  19. おひとりさまでは特に重要
  20. まとめ
  21. 参考リンク
  22. 遺言書作成について詳しく知りたい方へ

遺言執行者とは?

遺言執行者は、遺言内容を実現するために必要な手続を行う人です。

法務局も同様に、遺言執行者を「遺言の内容を実現するために必要な手続をする者」と説明しています。

例えば、

「友人Aさんに300万円を遺贈する」

という遺言があったとします。

遺言書に書いてあるだけでは、銀行口座から自動的に300万円がAさんへ振り込まれるわけではありません。

実際には、

  • 遺言書を確認する
  • 相続人へ通知する
  • 相続財産を確認する
  • 金融機関で手続を行う
  • Aさんへ財産を引き渡す

といった事務が必要になります。

その中心となるのが遺言執行者です。

遺言執行者は必ず必要?

すべての遺言で、必ず遺言執行者を指定しなければならないわけではありません。

例えば、

「妻に全財産を相続させる」

という比較的単純な遺言で、相続人同士の関係も良好であれば、遺言執行者を指定していなくても手続を進められる場合があります。

一方で、

  • 相続人以外への遺贈がある
  • 相続人が多い
  • 家族関係が複雑
  • 財産が多数ある
  • 相続人同士の関係に不安がある

といった場合には、遺言執行者を指定しておく意味が大きくなります。

遺言執行者が特に重要なケース

1.相続人以外の人に財産を遺贈する

例えば、

  • 内縁の配偶者
  • 友人
  • 子の配偶者
  • 福祉団体

などに財産を遺贈する場合です。

民法では、遺言執行者がいる場合、遺贈の履行は原則として遺言執行者のみが行うとされています。

そのため、相続人以外への遺贈がある場合には、遺言執行者を指定しておくと手続の主体が明確になります。

2.相続人同士の関係が良くない

例えば、

「前婚の子どもと現在の妻にほとんど交流がない」

といったケースです。

遺言書があっても、相続人同士が互いに不信感を持っていると、

「誰が手続をするのか」
「財産を勝手に動かしていないか」

といった問題が起こりやすくなります。

遺言執行者をあらかじめ指定しておくことで、誰が遺言内容を実行するのかを明確にできます。

3.財産の種類が多い

例えば、

  • 不動産
  • 預貯金
  • 株式
  • 車
  • その他の財産

があり、それぞれ別の人に承継させる場合です。

手続が多くなるほど、相続人だけで対応する負担も増えます。

遺言執行者を指定し、手続の中心人物を決めておく意味が大きくなります。

4.遺言による認知をする場合

遺言によって子を認知することもできます。

この場合、戸籍法では、遺言執行者が就職した日から10日以内に認知の届出を行うことが定められています。

このように、遺言執行者の手続が法律上予定されている遺言事項もあります。

5.遺言で推定相続人を廃除する場合

例えば、遺留分を有する推定相続人に虐待や重大な侮辱などの事情があり、遺言でその人を相続人から廃除する意思を示す場合です。

民法では、遺言で廃除の意思を表示した場合、遺言執行者が家庭裁判所へ廃除を請求しなければならないとされています。

こうした遺言では、遺言執行者の存在が特に重要になります。

遺言執行者は何をする?

遺言執行者の仕事は、単に「遺言書を家族へ見せる」ことではありません。

民法では、遺言執行者について、遺言内容を実現するため、相続財産の管理その他必要な一切の行為をする権利義務を有するとされています。

具体的には、遺言内容に応じて次のような業務を行います。

遺言執行者の主な仕事

1.相続人に遺言内容を知らせる

遺言執行者として就任した後は、相続人との連絡が必要になります。

遺言執行者は、単に受益者のためだけに動くのではなく、遺言内容を実現する立場として手続を進めます。

2.相続財産を確認する

遺言執行者は、遅滞なく相続財産目録を作成し、相続人へ交付する義務があります。

そのため、

  • 預貯金
  • 不動産
  • 株式
  • その他の財産

などを確認していきます。

3.遺贈を実行する

相続人ではない人へ財産を渡す「遺贈」がある場合、遺言執行者がその手続を進めます。

遺言執行者がいる場合には、遺贈の履行は遺言執行者が行います。

4.金融機関などの手続を行う

遺言内容に応じて、

  • 預金口座の解約
  • 払戻し
  • 財産の引渡し

などを行うことがあります。

金融機関ごとに必要書類や手続は異なります。

5.必要に応じて専門家と連携する

例えば、

不動産登記 → 司法書士
相続税 → 税理士
相続人との紛争 → 弁護士

など、遺言執行者だけですべての専門業務を行うとは限りません。

現在の民法では、遺言執行者は原則として自己の責任で第三者に任務を行わせることもできます。

遺言執行者には強い権限がある

遺言執行者が指定されている場合、相続人が自由に遺言執行を妨げてよいわけではありません。

民法では、遺言執行者がいる場合、相続人は相続財産の処分など、遺言の執行を妨げる行為をすることができないとされています。

つまり、遺言執行者は単なる「事務係」ではありません。

遺言者本人の意思を実現するため、法律上一定の権限を与えられた立場です。

遺言執行者は誰でもなれる?

民法上、遺言執行者には一定の欠格事由があります。

現行法では、

未成年者と破産者

は遺言執行者になることができません。

それ以外であれば、相続人を遺言執行者として指定することも可能です。

日本公証人連合会も、相続人や受遺者が遺言執行者になる場合を前提として案内しています。

例えば、

「妻を遺言執行者にする」
「長男を遺言執行者にする」

といった指定もできます。

相続人を遺言執行者にしても大丈夫?

法律上は可能です。

そして、家族関係が良好で、財産内容もシンプルであれば、相続人を遺言執行者にすることには合理性があります。

例えば、

「全財産を妻に相続させる」

という遺言で、妻自身が遺言執行者になれば、手続を一本化しやすいでしょう。

ただし、問題は家族関係です。

例えば、

「長男に財産を多く残し、その長男自身を遺言執行者にする」

というケースでは、他の相続人が、

「長男が自分に都合よく手続をしているのでは?」

と疑念を持つ可能性があります。

法律上なれるかどうかと、

実際にその人を選ぶのが適切かどうか

は別問題です。

どんな人を遺言執行者に選べばいい?

遺言執行者を選ぶ際には、

  • 信頼できる
  • 事務処理ができる
  • 家族との連絡が取れる
  • 相続人間で極端に対立していない
  • 財産管理に抵抗がない
  • 遺言者より十分若い

といった点を考えるとよいでしょう。

特に最後は意外に重要です。

例えば80歳の遺言者が、85歳の兄を遺言執行者に指定しても、相続開始時にはその人が亡くなっていたり、手続が難しい状態になっていたりする可能性があります。

家族を選ぶメリット・デメリット

メリット

  • 報酬を抑えやすい
  • 家族事情を理解している
  • 財産の所在を把握している場合がある

デメリット

  • 相続人同士の感情的対立に巻き込まれる
  • 手続の負担が大きい
  • 金融機関や専門家との対応が必要
  • 他の相続人から不公平だと思われることがある

「長男だから任せる」

というだけでなく、本当にその人が事務をできるかまで考えた方がよいでしょう。

専門家を遺言執行者にするメリット

行政書士、司法書士、弁護士などの専門家を遺言執行者として指定する方法もあります。

特に、

  • 相続人が多い
  • 相続人同士が疎遠
  • 相続人以外への遺贈がある
  • 財産内容が複雑
  • 相続人に手続の負担をかけたくない

といった場合には、第三者を指定する意味があります。

家族の一人を執行者にすると、その人自身が相続人である場合もあります。

一方、第三者であれば、

遺言内容を実現する実務担当者

として手続を進めやすい面があります。

もちろん、専門家を利用する場合には報酬が発生します。

遺言執行者の報酬はいくら?

遺言執行者の報酬には全国一律の金額はありません。

民法では、

遺言者が遺言書の中で報酬を定めることができる

とされています。

報酬の定めがない場合には、家庭裁判所が相続財産の状況などを考慮して報酬を定めることもできます。

専門家を遺言執行者として指定する場合には、各事務所の報酬体系を確認しておく必要があります。

遺言書を作る時点で、

「誰を遺言執行者にするのか」

だけでなく、

「報酬をどうするのか」

まで決めておくと、相続開始後の混乱を減らせます。

遺言執行者を指定するには?

遺言者は、遺言書の中で遺言執行者を指定できます。

民法では、一人だけでなく、複数人を指定することもできます。

例えば、

遺言者は、本遺言の遺言執行者として、〇〇〇〇を指定する。

といった形です。

自筆証書遺言でも、公正証書遺言でも指定できます。

法務局も、遺言執行者を指定した自筆証書遺言の記載例を公開しています。

指定された人は必ず引き受けなければならない?

いいえ。

遺言書で遺言執行者に指定された人が、必ずその仕事を引き受けなければならないわけではありません。

遺言執行者として就任するかどうかについては、本人の意思があります。

相続人などの利害関係人は、指定された人に対して、一定期間内に就任するかどうか回答するよう催告することもできます。

そのため、

遺言書に勝手に友人の名前を書けば終わり

という考え方は避けた方がよいでしょう。

実務上は、生前に候補者へ、

「自分が亡くなったら遺言執行者をお願いしたい」

と話しておく方が安全です。

遺言執行者を指定していなかったらどうなる?

遺言書に遺言執行者の指定がなくても、必要になった場合には家庭裁判所へ選任を申し立てることができます。

また、

  • 指定された人が死亡していた
  • 辞退した
  • 遺言執行者がいなくなった

といった場合も同様です。

裁判所は、相続人、受遺者、遺言者の債権者などの利害関係人から申立てがあれば、遺言執行者を選任することができます。

申立てには、

遺言書1通につき収入印紙800円

と郵便料などが必要です。

つまり、後から家庭裁判所に選んでもらうこともできます。

ただし、

最初から適切な人を遺言書で指定しておけば、その手続自体を減らせる

ということです。

遺言執行者がいると相続人は何もしなくていい?

そこまで単純ではありません。

遺言執行者には遺言を実現するための権限がありますが、遺言執行者は、

「相続に関するすべてを自由に決める人」

ではありません。

遺言書に書かれていないことについてまで、自分の判断で財産の分け方を変更することはできません。

例えば、

「父の遺言だと長男に1,000万円だけど、かわいそうだから1,500万円にしよう」

ということはできません。

遺言執行者の役割は、

自分の考えで相続を仕切ることではなく、遺言者の意思を実現すること

です。

遺言執行者を決めるときの注意点

「一番財産をもらう人」を自動的に選ばない

相続人が遺言執行者になること自体は問題ありません。

ただし、他の相続人との関係も考える必要があります。

高齢の人だけを指定しない

相続開始が何年後になるかは分かりません。

年齢や健康状態も考慮します。

本人の承諾を事前に確認する

指定されても辞退される可能性があります。

予備の方法も考える

例えば、

第一候補が就任できない場合に別の人を指定するなど、予備的な設計も検討できます。

どんな場合に専門家を指定した方がいい?

一つの目安として、次のようなケースでは専門家を遺言執行者とすることを検討する価値があります。

  • 相続人同士の関係が悪い
  • 前婚の子どもがいる
  • 相続人以外への遺贈がある
  • おひとりさま
  • 相続人が遠方にいる
  • 高齢の配偶者に手続をさせたくない
  • 預貯金や不動産など財産が多い
  • 遺言内容が複雑

特に、

「遺言を作る目的が相続トラブルの予防」

である場合、誰を遺言執行者にするかまで考えておいた方がよいでしょう。

おひとりさまでは特に重要

おひとりさまの場合、

「亡くなった後、誰が遺言を実行するのか」

という問題がより重要になります。

例えば、

「友人に財産を遺贈する」
「残った財産を福祉団体へ寄付する」

という遺言を書いても、実際に手続をする人が必要です。

そのため、おひとりさまの遺言では、

遺言内容と遺言執行者をセットで考える

ことが重要です。

さらに、葬儀・納骨・各種契約の解約などは遺言執行者の業務とは別になるため、必要に応じて死後事務委任契約なども検討します。

関連記事:おひとりさまに遺言書は必要?相続人がいない場合の財産はどうなる?

まとめ

遺言執行者とは、

遺言者が亡くなった後に、遺言書の内容を実際の手続として実現する人

です。

主なポイントを整理すると、

  1. 遺言執行者はすべての遺言で必須ではない
  2. 遺贈や複雑な相続では指定する意味が大きい
  3. 遺言執行者は相続財産の管理など必要な行為を行う
  4. 相続財産目録を作成して相続人へ交付する義務がある
  5. 相続人や受遺者自身を指定することもできる
  6. 未成年者や破産者は遺言執行者になれない
  7. 専門家を指定する方法もある
  8. 報酬は遺言書で定めることができる
  9. 指定した人が就任できない場合、家庭裁判所で選任してもらうこともできる

という点が重要です。

遺言書を作る際には、

「誰に財産を残すか」

だけでなく、

「自分が亡くなった後、誰がその内容を実現するのか」

まで考えておくことが大切です。

はいしま行政書士事務所では、

「遺言執行者を指定した方がいいのか」
「子どもを指定して問題ないのか」
「相続人以外への遺贈があるので手続が心配」

といった点も含めて、遺言書の内容を整理いたします。

※本記事は2026年10月時点の法令・制度に基づく一般的な情報です。遺言内容や相続関係によって、遺言執行者に必要となる具体的な手続は異なります。

参考リンク

e-Gov法令検索「民法」

裁判所「遺言執行者の選任」

日本公証人連合会「遺言公正証書の必要資料」

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