自筆証書遺言と公正証書遺言の違い|どちらを選べばいい?

遺言書を作ろうと考えたとき、最初に迷いやすいのが、

「自分で書く遺言書でいいのか」
「公証役場で公正証書遺言を作った方がいいのか」

という点です。

一般的に利用される遺言書には、主に自筆証書遺言と公正証書遺言があります。

自筆証書遺言は、自分で作成できる手軽さがある一方、書き方を間違えると遺言の効力が問題になる可能性があります。

一方、公正証書遺言は、公証人が関与して作成するため信頼性が高い反面、費用や証人の準備などが必要です。法務局も、自筆証書遺言を「手軽かつ自由度の高い方式」、公正証書遺言を「信頼性の高い方式」と案内しています。

この記事では、それぞれの特徴やメリット・デメリットを比較しながら、どちらを選べばよいのかを解説します。

自筆証書遺言と公正証書遺言の違い

まず、大きな違いを整理してみましょう。

項目自筆証書遺言公正証書遺言
作成する人遺言者本人公証人
本文の自書原則必要不要
証人不要2名必要
費用原則不要公証人手数料が必要
原本の保管自宅等、または法務局公証役場
家庭裁判所の検認自宅保管なら必要不要
法務局保管の場合の検認不要―
紛失・改ざんのリスク自宅保管ではあり原本は公証役場で保管
作成時の専門家の関与必須ではない公証人が関与

自筆証書遺言でも、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用するかどうかで大きく違ってきます。

そのため現在は、

「自筆証書遺言か、公正証書遺言か」

という二択だけではなく、

自宅で保管する自筆証書遺言
法務局に預ける自筆証書遺言
公正証書遺言

という3つに分けて考えると分かりやすいでしょう。法務局もこの3方式を比較して案内しています。

自筆証書遺言とは?

自筆証書遺言とは、遺言者本人が自分で作成する遺言書です。

遺言書の本文は原則として自分で書く

自筆証書遺言では、

  • 遺言書の全文
  • 作成日付
  • 氏名

を遺言者本人が自書し、押印する必要があります。

例えば、

「令和○年○月吉日」

という書き方では作成日が特定できないため、適切ではありません。

「令和8年9月15日」

など、具体的な年月日を記載する必要があります。

財産目録はパソコンでも作成できる

「全部手書きしなければならない」と思われがちですが、現在は財産目録については自書する必要はありません。

パソコンで財産目録を作成したり、不動産の登記事項証明書や通帳のコピーなどを添付したりすることもできます。

ただし、自書ではない財産目録を添付する場合は、原則としてその各ページに署名・押印する必要があります。

自筆証書遺言のメリット

1.費用を抑えやすい

自分で作成し、自宅で保管するのであれば、公証人へ支払う作成手数料はありません。

そのため、費用面では最も手軽な方法です。

法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用する場合でも、保管申請の手数料は1件3,900円です。

2.思い立ったときに作成できる

自筆証書遺言には証人が必要ありません。

自分一人で作成することができるため、

「まず遺言書を作っておきたい」

という場合には取り組みやすい方法です。

3.内容を秘密にしやすい

自分だけで作成して保管するのであれば、遺言書の存在や内容を他人に知られずに作成することもできます。

ただし、秘密にしすぎると、亡くなった後に遺言書自体を発見してもらえないという問題もあります。

自筆証書遺言のデメリット

1.方式を間違えると無効になる可能性がある

自筆証書遺言には、法律で定められた方式があります。

例えば、

  • 本文をパソコンで作成した
  • 日付を正しく書いていない
  • 署名がない
  • 押印がない

といった場合、遺言書の有効性が問題になる可能性があります。

法務省も、法令上の要件を満たしていなかったり、内容に誤りがあったりすると無効になる可能性があると注意喚起しています。

2.自宅保管では紛失や改ざんのリスクがある

自宅の引き出しなどで保管している場合、

「遺言書が見つからない」

ということもあり得ます。

また、第三者による破棄や改ざんのリスクを完全に排除することもできません。

この問題を解消するために設けられたのが、法務局の自筆証書遺言書保管制度です。

3.自宅保管では家庭裁判所の検認が必要

自宅などで保管されていた自筆証書遺言については、原則として、遺言者が亡くなった後に家庭裁判所で「検認」という手続が必要です。

検認とは、遺言書の状態などを確認し、偽造や変造を防止するための手続です。

ただし、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用した遺言書については検認が不要です。

法務局の自筆証書遺言書保管制度という選択肢

自筆証書遺言を選ぶのであれば、法務局への保管も検討しておきたいところです。

法務局に預けることで、

  • 遺言書の紛失を防げる
  • 第三者による改ざんを防げる
  • 家庭裁判所の検認が不要になる
  • 相続開始後に遺言書の存在を知らせる通知制度を利用できる

といったメリットがあります。

一方で、法務局では遺言書の内容についての法律相談は行っていません。

つまり、

「この分け方で問題ないか」
「遺留分を侵害していないか」
「この書き方で自分の希望を実現できるか」

といった点まで法務局が確認してくれるわけではありません。

ここは重要なポイントです。

公正証書遺言とは?

公正証書遺言は、遺言者の意思をもとに、公証人が公正証書として作成する遺言です。

実務上は、遺言者が公証人に希望する遺言内容を伝え、公証人がその意思を確認しながら遺言書を作成します。

作成時には、原則として証人2名の立会いが必要です。

公正証書遺言のメリット

1.方式不備による無効のリスクを抑えられる

公正証書遺言では、法律の専門家である公証人が遺言の作成に関与します。

そのため、自筆証書遺言と比べると、

「法律上の方式を間違えて遺言書が無効になる」

というリスクを大きく抑えることができます。

2.原本が公証役場で保管される

公正証書遺言の原本は公証役場で保管されます。

そのため、自宅で保管する場合のような、

  • 紛失
  • 破棄
  • 改ざん

といったリスクを抑えられます。

3.家庭裁判所の検認が不要

公正証書遺言は、遺言者が亡くなった後に家庭裁判所で検認を受ける必要がありません。

相続開始後、比較的スムーズに遺言の内容に沿った手続に進みやすいのがメリットです。

4.自分で全文を書く必要がない

公正証書遺言では、自筆証書遺言のように遺言本文をすべて手書きする必要はありません。

そのため、手が不自由な方や、長文を書くことが難しい方にとっても利用しやすい方法です。

また、病気や高齢などにより公証役場へ出向くことが難しい場合には、公証人に病院や自宅、介護施設などへ出張してもらえる場合もあります。

公正証書遺言のデメリット

1.費用がかかる

公正証書遺言では、公証人へ支払う手数料が必要です。

手数料は一律ではなく、

  • 財産の価額
  • 財産を受け取る人の人数
  • 遺言の内容

などによって変わります。

例えば、2026年現在、日本公証人連合会の案内では、
目的価額1,000万円超3,000万円以下の場合の基本手数料は2万6,000円、
3,000万円超5,000万円以下では3万3,000円などとされています。
また、財産総額が1億円以下の場合には遺言加算が加わるなど、実際の計算には一定のルールがあります。

そのため、具体的な費用は公証役場に確認するのが確実です。

2.証人2名が必要

公正証書遺言の作成には、証人2名が必要です。

誰でも証人になれるわけではなく、例えば、

  • 未成年者
  • 推定相続人
  • 遺贈を受ける人
  • これらの人の配偶者や直系血族など

は証人になることができません。

適当な証人がいない場合には、公証役場に相談して紹介してもらうことも可能です。

自筆証書遺言と公正証書遺言、どちらを選べばいい?

どちらが「正解」というものではありません。

家族関係や財産内容、遺言の目的によって適した方法は変わります。

自筆証書遺言が向いているケース

例えば、

  • 財産関係が比較的シンプル
  • 遺言内容も単純
  • まず費用を抑えて作成したい
  • 自分で文章を書くことができる
  • 法務局の保管制度も利用したい

という場合には、自筆証書遺言が選択肢になります。

特に、法務局の保管制度を利用することで、自宅保管による紛失や検認の問題はかなり解消できます。

公正証書遺言が向いているケース

一方、

  • 相続人が多い
  • 再婚家庭である
  • 前婚の子どもがいる
  • 相続人同士の関係に不安がある
  • 不動産が多い
  • 相続人以外の人に財産を遺贈したい
  • 特定の相続人に多く財産を残したい
  • 遺言内容が複雑
  • 遺言の有効性をめぐる争いをできるだけ避けたい

といったケースでは、公正証書遺言を検討する価値が高くなります。

費用だけを比較すれば自筆証書遺言が有利ですが、遺言書は作成すること自体が目的ではなく、亡くなった後に本人の意思を実現することが目的です。

内容が複雑であれば、多少費用がかかっても公正証書遺言を選ぶ合理性があります。

「自筆証書遺言+法務局保管」も有力な選択肢

以前は、

「安く済ませるなら自筆証書遺言」
「確実性を重視するなら公正証書遺言」

という比較になりがちでした。

しかし現在は、自筆証書遺言書保管制度があります。

そのため、

費用を抑えつつ、紛失や改ざん、検認の問題を避けたい

という方にとっては、

自筆証書遺言を専門家と一緒に作成し、法務局で保管する

という方法も現実的な選択肢です。

ただし、公正証書遺言と違い、法務局は遺言内容の法的な妥当性まで確認してくれるわけではありません。

ここは両者の大きな違いです。

迷ったら「費用」よりも遺言の内容で考える

遺言方式を選ぶ際、

「どちらが安いか」

だけで判断するのはおすすめしません。

例えば、

財産が預金だけで、妻一人にすべて相続させるという比較的シンプルな内容と、

不動産が複数あり、前婚の子どもと現在の配偶者がおり、特定の財産をそれぞれに相続させる内容とでは、

遺言書に求められる確実性が違います。

まず、

「誰に何を残したいのか」

を整理し、その内容に応じて自筆証書遺言と公正証書遺言を選ぶ方が合理的です。

まとめ

自筆証書遺言と公正証書遺言には、それぞれメリットとデメリットがあります。

自筆証書遺言は、費用を抑えて自分で作成できる反面、方式不備や内容上の問題に注意する必要があります。

一方、公正証書遺言は費用や証人の準備が必要ですが、公証人が関与し、原本も公証役場で保管されるため、より確実性を重視したい場合に適しています。

また現在では、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用することで、自筆証書遺言の弱点の一部を補うこともできます。

大切なのは、

「どの方法で遺言を書くか」よりも、「自分の希望を確実に実現できる内容になっているか」

という点です。

はいしま行政書士事務所では、自筆証書遺言、公正証書遺言のどちらが適しているかという段階から、遺言内容の整理や原案作成についてご相談いただけます。

「遺言書を作りたいけれど、どの方法を選べばいいか分からない」

という場合も、家族関係や財産状況、ご希望を伺いながら一緒に整理いたします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の相続関係、財産内容等によって適切な対応は異なります。

参考リンク

遺言書作成について詳しく知りたい方へ

遺言書は、家族構成や財産の内容によって、適した作成方法が異なります。

「自筆証書遺言と公正証書遺言、どちらを選べばいい?」
「自分の場合、遺言書を作った方がいい?」
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