「遺言書を書いたら、その日から効力があるの?」
「10年前に作った遺言書でも有効?」
「遺言書には、どこまで強い効力があるの?」
遺言書について調べていると、このような疑問を持つ方は少なくありません。
結論からいうと、遺言は原則として遺言者が亡くなった時から効力を生じます。
民法985条でも、
「遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる」
と定められています。
つまり、遺言書を書いた瞬間に自宅の所有権が長男へ移ったり、預金が妻のものになったりするわけではありません。
また、通常の方式で適法に作成された遺言については、「作成から○年で失効する」という一般的な有効期限はありません。
ただし、作成後に家族関係や財産状況が変わったり、新しい遺言書を作ったりすると、古い遺言の内容がそのまま実現されない場合があります。
この記事では、遺言書の効力がいつ発生するのか、どこまで効力があるのか、有効期限はあるのか、複数の遺言書がある場合はどうなるのかを解説します。
遺言書はいつから効力を持つ?
遺言書を作成しても、本人が生きている間は原則として相続の効力は発生しません。
遺言の効力が発生するのは、
遺言者が死亡した時
です。
例えば、
「自宅を長男に相続させる」
という遺言を60歳で作ったとします。
その後、遺言者が90歳まで生きたとしても、60歳の時点で長男が自宅を取得するわけではありません。
本人が生きている間は、原則として本人自身の財産です。
生前は自分の財産を自由に処分できる
ここは重要です。
遺言書に、
「A土地を長男に相続させる」
と書いた後でも、遺言者本人が生前にその土地を売却することはできます。
民法では、遺言後に行った生前処分などが遺言内容と抵触する場合、その抵触部分について遺言を撤回したものとみなす仕組みがあります。
つまり、
遺言書を書いたことで、自分自身が財産を動かせなくなるわけではありません。
遺言に条件を付けた場合は?
遺言に「停止条件」が付されている場合には少し扱いが変わります。
民法985条2項では、遺言者の死亡後にその条件が成就した場合、条件が成就した時から効力が生じると定めています。
ただし、条件付きの遺言は内容が複雑になりやすいため、実際に作成する際は慎重な検討が必要です。
遺言書に有効期限はある?
通常の自筆証書遺言や公正証書遺言について、
「作成から5年」
「10年で失効する」
といった一般的な有効期限はありません。
適法に作成され、後から撤回などされていなければ、かなり昔に作った遺言書であっても効力を持つ可能性があります。
一方、民法では遺言者がいつでも遺言の全部または一部を撤回できると定められています。
そのため、
古いから自動的に失効するのではなく、その後に変更・撤回されたかどうか
が重要です。
20年前の遺言書でも有効?
形式上有効で、撤回もされていなければ、古い遺言書だからという理由だけで直ちに無効になるわけではありません。
例えば、
平成18年に作成した遺言書が、令和8年に本人が亡くなったときに効力を持つ
ということもあり得ます。
ただし、20年間も経過すれば、
- 配偶者が先に亡くなった
- 子どもが増えた
- 相続人が亡くなった
- 自宅を売却した
- 預金口座を解約した
- 財産額が大きく変わった
- 家族関係が変わった
ということがあります。
そのため、
有効期限がないことと、見直しが不要であることは別問題
です。
特別な方式の遺言には例外がある
少し専門的ですが、例外もあります。
死亡の危急に迫った場合などに利用される特別の方式による遺言については、通常の方式で遺言できるようになってから6か月間生存すると、その特別方式の遺言は効力を生じないとされています。
通常の自筆証書遺言・公正証書遺言とは別の特殊なケースです。
一般の方が「遺言書の有効期限」を考える場合は、
通常の遺言には原則として年数による有効期限はない
と理解してよいでしょう。
遺言書ではどこまで決められる?
遺言書に書けば、どんな内容でも法律上強制できるわけではありません。
遺言によって法的な効力を持たせることのできる事項は法律上一定の範囲に限られています。
財産に関する代表的な内容としては、
- 相続分を指定する
- 遺産分割の方法を指定する
- 特定の財産を特定の相続人へ承継させる
- 相続人以外の人へ財産を遺贈する
- 遺言執行者を指定する
などがあります。法務省も、遺言による財産処分として相続分の指定、遺産分割方法の指定、遺贈などを挙げています。
1.法定相続分と違う割合を指定できる
法律では法定相続分が定められていますが、遺言によって相続分を指定することができます。
例えば、
相続人が妻・長男・長女の場合、
法定相続分なら、
妻 1/2
長男 1/4
長女 1/4
です。
しかし、遺言によって法定相続分と異なる承継内容を定めることもできます。
民法902条は、遺言によって共同相続人の相続分を指定できると定めています。
ただし、一定の相続人には遺留分があります。
そのため、
「長男に100%」
と書けば絶対に何の問題も起きないというわけではありません。
関連記事:遺言書があっても遺留分は請求される?遺留分と遺言の関係
2.「誰にどの財産を残すか」を決められる
例えば、
「自宅は妻へ」
「A銀行の預金は長男へ」
「株式は長女へ」
というように、具体的な財産の承継方法を指定できます。
民法908条でも、被相続人は遺言によって遺産分割の方法を定めることができるとされています。
これは遺言書の非常に重要な機能です。
特に、不動産のように簡単に分割できない財産がある場合には、
「誰がその財産を取得するのか」
を明確にしておく意味があります。
3.相続人ではない人にも財産を残せる
遺言書を利用すると、相続人ではない人にも財産を残すことができます。
これを遺贈といいます。
例えば、
- 内縁のパートナー
- 長年世話をしてくれた友人
- 子の配偶者
- 甥や姪
- 福祉団体や法人
などです。
日本公証人連合会も、遺言には財産の帰属を本人自身が定める役割があると説明しています。
4.遺言執行者を指定できる
遺言書では、
「自分が亡くなった後、誰がこの遺言を実行するのか」
を指定することもできます。
これが遺言執行者です。
遺言執行者を指定しておくことで、遺言内容に沿った手続を進めやすくなる場合があります。
法務局の遺言書文例でも、遺言執行者を指定する例が紹介されています。
このテーマは別記事で詳しく扱う予定です。
遺言書に書いても法的効力がないこともある
遺言書には、財産処分だけでなく、
「家族仲良く暮らしてほしい」
「兄弟で争わないでほしい」
「妻には感謝している」
といった気持ちを書くこともできます。
これを付言事項といいます。
ただし、付言事項には原則として法的な拘束力はありません。
宇都宮地方法務局も、付言事項について、家族への感謝や遺産分配の理由などを記載できるものの、法的な効力を生じない事項だと説明しています。
つまり、
「兄弟は絶対に争ってはいけない」
と書いたからといって、法律上それだけで相続人の行動を強制できるわけではありません。
それでも付言事項には意味がある
法的強制力はありませんが、
「なぜ長女に自宅を残したのか」
といった本人の考えを伝えることで、家族が遺言内容を理解しやすくなる場合があります。
法務局も、付言事項を本人の気持ちを伝えるメッセージとして紹介しています。
遺言書があれば何でも自由にできる?
そうではありません。
遺言書には強い効力がありますが、法律上の制限があります。
代表的なのが遺留分です。
例えば、
「全財産を長男に相続させる」
という遺言書が有効であっても、妻や他の子どもの遺留分を侵害していれば、長男が遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。
つまり、
遺言者の意思を実現できる範囲は広いものの、無制限ではありません。
遺言書と借金の関係には注意
もう一つ注意したいのが債務です。
例えば、
「長男にすべての借金を負担させる」
と遺言書に書いたとしても、それだけで債権者との関係まで自由に変更できるわけではありません。
民法902条の2では、被相続人が遺言で相続分を指定していても、債権者は原則として法定相続分に応じて各共同相続人へ請求できる旨が定められています。
財産だけでなく債務もある場合には、遺言内容を慎重に設計する必要があります。
遺言書は後から変更できる?
できます。
しかも、
何回でも変更できます。
民法1022条では、遺言者はいつでも、遺言の方式に従って遺言の全部または一部を撤回できると定めています。
例えば、
60歳で遺言書作成
↓
65歳で財産状況が変わる
↓
70歳で新しい遺言書を作る
ということも可能です。
「一度作ったら変更できないから、完全に決まるまで作らない」
と考える必要はありません。
遺言書が2通あったらどちらが有効?
ここも検索されやすいポイントです。
例えば、
2018年の遺言書
2026年の遺言書
の2通が見つかった場合です。
単純に、
「新しい方だけが全部有効で、古い方は全部無効」
というわけではありません。
民法1023条では、前の遺言と後の遺言が抵触する部分について、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなすとしています。
例えば、
古い遺言
「自宅は長男へ、預金は長女へ」
新しい遺言
「自宅は妻へ」
という場合、
自宅については新しい遺言と古い遺言が抵触します。
一方、預金について新しい遺言が何も触れていない場合には、古い遺言の内容が残る可能性があります。
そのため、遺言書を作り直す場合には、
古い遺言との関係を整理して作成する
ことが重要です。
公正証書遺言の後に自筆証書遺言を作ったら?
これもあります。
「公正証書遺言の方が格式が高いから、後から自筆証書遺言を書いても意味がない」
と思われることがありますが、必ずしもそうではありません。
遺言の効力は、単純に
公正証書遺言 > 自筆証書遺言
という優先順位で決まるものではありません。
後から適法な自筆証書遺言を作成し、それが以前の公正証書遺言と抵触する場合には、抵触部分について後の遺言が問題になります。
つまり重要なのは、
遺言方式の格ではなく、遺言内容と作成時期、そしてそれぞれが有効に成立しているか
です。
ただし、複数の遺言が存在すると相続人が混乱しやすいため、実務上は整理しておいた方が安全です。
遺言書を作った後に財産を売ってしまったら?
例えば、
遺言書に、
「A土地を長女に相続させる」
と書いた後、生前に本人がA土地を売却したとします。
この場合、死亡時にはその土地は遺言者の財産ではありません。
また、民法1023条2項では、遺言後の生前処分などと遺言が抵触する場合について、前の遺言と後の遺言が抵触する場合と同様の扱いをするとされています。
つまり、
遺言書を書いた時点の財産状況が、死亡時まで固定されるわけではありません。
財産を受け取る予定の人が先に亡くなった場合は?
例えば、
「妻に全財産を相続させる」
という遺言を作ったものの、妻が遺言者より先に亡くなった場合です。
このような場合、
「妻が亡くなったのだから、当然その子どもが受け取る」
とは限りません。
そのため、
「妻が遺言者より先に死亡していた場合には長男へ」
といった予備的な遺言を検討することがあります。
これも、長期間遺言を見直していない場合に問題になりやすいポイントです。
遺言書は何年ごとに見直すべき?
法律上、
「5年に1回見直さなければならない」
という決まりはありません。
ただし、私は遺言書を作成した後、
- 配偶者や相続人が亡くなった
- 結婚・離婚・再婚をした
- 子どもや孫が増えた
- 不動産を購入・売却した
- 財産額が大きく変わった
- 相続人との関係が変わった
- 遺言執行者が亡くなった・高齢になった
といった変化があったときには、内容を確認することをおすすめします。
法務局も、人生の節目や家族構成が変わったときに遺言書を書き直す考え方を紹介しています。
「有効期限がない」からこそ古い遺言には注意
遺言書に一般的な有効期限がないことは、メリットでもあり注意点でもあります。
30年前に作った遺言書でも、条件を満たしていれば問題になる可能性があるからです。
例えば本人自身は、
「昔書いたけど、もう気持ちは変わった」
と思っていたとしても、それだけでは正式な撤回になっていない場合があります。
だからこそ、
考えが変わったら、正式な方式で遺言を変更・撤回する
ことが重要です。
まとめ
遺言書の効力について、特に重要なポイントを整理します。
- 遺言は原則として遺言者が死亡した時から効力を生じる
- 通常の遺言には「作成後○年」という一般的な有効期限はない
- 遺言では相続分、財産の承継方法、遺贈、遺言執行者などを定められる
- 付言事項には原則として法的拘束力はない
- 遺言があっても遺留分など法律上の制限がある
- 遺言はいつでも変更・撤回できる
- 複数の遺言がある場合、内容が抵触する部分では後の遺言が優先する
- 作成後に財産や家族関係が変わった場合は、遺言の見直しを検討する
遺言書は、
「一度書いたら永久に内容が固定される書類」
ではありません。
一方で、
「古いから自然に無効になる書類」でもありません。
はいしま行政書士事務所では、
「昔作った遺言書が今も使えるのか確認したい」
「家族構成が変わったので遺言を書き直したい」
「新しい遺言書を作りたいが、古い遺言との関係が心配」
といった段階からご相談いただけます。
現在の家族関係や財産内容を整理しながら、今のご希望に合った遺言内容を一緒に検討いたします。
※本記事は2026年9月時点の法令・制度に基づく一般的な情報です。個別の遺言の有効性や解釈については、具体的な遺言書の内容や作成経緯によって判断が異なる場合があります。

