遺言書はどんな人に必要?遺言を残した方がいいケース10選

「うちは財産がそれほど多くないから、遺言書までは必要ない」

そう考えている方は少なくありません。

しかし、遺言書は財産の多い人だけが作るものではありません。

むしろ、

「誰に財産を残したいのか」
「自宅を誰に引き継いでもらいたいのか」
「残された家族にできるだけ負担をかけたくない」

といった、自分の意思を亡くなった後に実現するための手段が遺言書です。

遺言がある場合、原則としてその内容に沿って遺産の承継が行われます。また、相続人以外の人に財産を渡したい場合にも、遺言を利用することができます。法務省も、遺言には本人の最終意思を実現するとともに、相続をめぐる紛争を事前に防止する役割があると案内しています。

この記事では、行政書士の立場から、特に遺言書の作成を検討していただきたい10のケースを紹介します。

遺言書の必要性が高い10のケース

遺言書の必要性は、財産の多さだけで決まるものではありません。
家族構成や財産の内容、ご本人の希望によって、遺言書を作成しておくメリットは大きく変わります。ここでは、特に遺言書の作成を検討したい10のケースを紹介します。

子どものいない夫婦

特に遺言書の必要性が高いのが、子どものいないご夫婦です。

「夫が亡くなったら、財産はすべて妻が相続する」

と思われている方もいますが、必ずしもそうではありません。

子どもがおらず、亡くなった方の父母などもすでに亡くなっている場合、配偶者だけでなく、亡くなった方の兄弟姉妹が相続人になることがあります。

つまり、夫が亡くなった後、妻と夫の兄弟姉妹との間で遺産について手続きをしなければならない可能性があるのです。

法務局も「こどもがいないご夫婦」を遺言書の必要性が高いケースとして紹介しています。

「自分が亡くなった後は、配偶者に財産を残したい」

という意思が明確であれば、元気なうちに遺言書を作成しておくことを検討する価値があります。

なお、兄弟姉妹には遺留分がありません。一方、父母など直系尊属が相続人となる場合には遺留分がありますので、家族構成によって検討内容は変わります。

遺留分(いりゅうぶん)とは、亡くなった人(被相続人)の財産について、兄弟姉妹以外の法定相続人に最低限保障された遺産の取得分のことです。

内縁の夫・妻がいる

婚姻届を提出していない内縁関係の場合、長年一緒に生活していたとしても、内縁の配偶者には原則として法定相続人としての相続権はありません。

例えば、

「20年以上一緒に暮らしてきたパートナーに自宅を残したい」

と思っていたとしても、何の準備もしていなければ、その意思がそのまま実現するとは限りません。

内縁のパートナーなど、法定相続人ではない人に財産を残したい場合には、遺言による遺贈を検討する必要があります。法務局も内縁関係を、遺言書の必要性が高い例として挙げています。

再婚していて、前の結婚で子どもがいる

再婚家庭では、相続関係が複雑になりやすいため注意が必要です。

例えば、夫に前妻との間の子どもがおり、現在の妻との間にも子どもがいる場合、前妻との子どもも現在の妻との子どもも、夫の子であることに変わりはありません。

そのため、夫が亡くなれば、現在の妻とそれぞれの子どもが相続人となる可能性があります。

本人としては、

「今住んでいる家は現在の妻に残したい」
「前の結婚の子どもにも財産を残したい」

などの希望があるかもしれません。

こうした家庭では、相続が発生してから家族に判断を委ねるのではなく、本人自身が財産の承継方法を考えておくことが重要です。

相続人以外に財産を残したい人がいる

遺言書が特に力を発揮するケースです。

例えば、

  • 長年介護してくれた息子のお嫁さん
  • お世話になった友人
  • 内縁のパートナー
  • 支援している団体や法人

などは、家族関係などによっては法定相続人にならないことがあります。

「お世話になったから財産の一部を渡したい」と思っていても、その意思を家族に話していただけでは、本人の死後に必ず実現されるわけではありません。

遺言書を利用すれば、相続人以外の人や法人に財産を遺贈することができます。

相続人同士の関係が良くない

兄弟姉妹が長年疎遠になっている。

親子の関係が悪化している。

前婚の子どもと現在の家族に交流がない。

このような事情がある場合には、相続発生後の話し合いが難しくなる可能性があります。

遺言書がなければ、遺産の具体的な分け方について相続人同士で遺産分割協議を行う場面が生じます。

遺言書を作ったからといって、すべての相続トラブルを防げるわけではありません。

しかし、本人が「誰に、どの財産を、どのように承継させたいのか」を明確にしておくことには大きな意味があります。

家族関係に不安がある方ほど、早めに相続関係を整理しておくことをおすすめします。

財産の大部分が自宅などの不動産

預貯金であれば比較的分けやすいですが、不動産は簡単には分割できません。

例えば、

  • 自宅3,000万円
  • 預貯金500万円

という財産構成で、相続人が複数いる場合を考えてみましょう。

「自宅には長男が住んでいるから、長男に残したい」

と思っていても、他の相続人との調整が必要になる可能性があります。

不動産を共有にする方法もありますが、その後の売却や管理で問題が生じることもあります。

法務省も「不動産を相続人の共有ではなく、一人に相続させたい」場合を遺言書を活用する例として紹介しています。

参考:法務局「遺言書の作成を推奨する人(12選)」

不動産の割合が大きい家庭では、遺言書だけでなく、預貯金とのバランスや遺留分なども含めて検討する必要があります。

事業をしている

会社経営者や個人事業主の場合、一般家庭とは異なる相続上の問題があります。

例えば、

  • 会社の株式
  • 事業用不動産
  • 車両
  • 機械設備
  • 事業用預金

などが相続財産に含まれる可能性があります。

事業を承継する人に必要な財産が分散してしまえば、事業継続に影響する可能性もあります。

誰に事業を引き継いでもらうのかが決まっている場合は、遺言だけでなく、会社法上の手続や事業承継対策なども含め、早い段階から準備しておくことが重要です。

特定の相続人に多く財産を残したい

「同居して介護してくれた娘に自宅を残したい」

「事業を継いでくれる長男に会社関係の財産を多く残したい」

など、法定相続分とは異なる形で財産を承継させたいケースもあります。

遺言によって財産の承継方法を指定することはできますが、ここで注意したいのが「遺留分」です。

一定の相続人には、遺言の内容にかかわらず一定割合の財産について金銭を請求できる遺留分が認められています。

そのため、

「長男に全部相続させる」

とだけ遺言書を書けば必ず問題がなくなる、というものではありません。

家族構成と財産状況を確認した上で、遺留分にも配慮して内容を考える必要があります。

おひとりさま・相続人がいない

配偶者や子どもがおらず、両親や兄弟姉妹などもいない、いわゆる「おひとりさま」の方にとっても、遺言は重要な生前準備の一つです。

例えば、

「お世話になった人に財産を残したい」

「自分を支援してくれた団体に寄付したい」

「この財産だけは、この人に渡したい」

という希望があるのであれば、元気なうちに意思を形にしておく必要があります。

また、おひとりさまの場合には遺言書だけでなく、

  • 入院や施設入所時の支援
  • 判断能力が低下した場合への備え
  • 葬儀や納骨
  • 自宅の片付け
  • 各種契約の解約

など、亡くなる前後の手続についても検討しておくと安心です。

遺言、任意後見、死後事務委任などは役割がそれぞれ異なるため、必要に応じて組み合わせて考えることが大切です。

相続人が多い・疎遠な相続人がいる

相続人の人数が多い場合も、遺言書を検討したいケースです。

例えば、兄弟姉妹が相続人となり、その兄弟姉妹の一部がすでに亡くなっている場合には、その子どもたちが相続人となることもあります。

その結果、

「ほとんど会ったことのない親族も相続人だった」

というケースも起こります。

遺言書がない場合、遺産分割協議のために多数の相続人との連絡や調整が必要になることがあります。

自分の相続関係が複雑になりそうだと感じている場合には、一度戸籍関係を整理し、「自分が今亡くなったら誰が相続人になるのか」を確認しておくとよいでしょう。

遺言書は「財産が多い人」だけのものではありません

ここまで紹介した10項目をまとめると、遺言書の必要性を考えるポイントは、財産額だけではありません。

大切なのは、

「法律どおりに相続された場合と、自分が希望する財産の残し方に違いがあるか」

という点です。

法律どおりの相続で問題がないのであれば、必ずしも遺言書を作成しなければならないわけではありません。

一方、

「妻に自宅を残したい」
「この人に財産を渡したい」
「家族同士で揉めてほしくない」

といった具体的な希望があるのであれば、その希望を実現する方法として遺言書を検討する価値があります。

遺言書は元気なうちに考える

遺言について相談すると、

「まだ元気だから、もう少し先でいい」

と考える方もいらっしゃいます。

しかし、遺言は、自分自身の意思によって行うものです。

認知症などによって判断能力が低下した後では、有効な遺言を作成できるかどうかが問題となる場合があります。

だからこそ、病気になってから慌てて作るのではなく、元気で自分の意思を十分に伝えられる段階で一度考えてみることが大切です。

遺言書は、一度作ったら一生変更できないものではありません。

家族関係や財産状況が変われば、その時点で内容を見直すこともできます。

まとめ

遺言書の作成を特に検討したいのは、次のような方です。

  1. 子どものいない夫婦
  2. 内縁のパートナーがいる
  3. 再婚していて前婚の子どもがいる
  4. 相続人以外に財産を残したい
  5. 相続人同士の関係に不安がある
  6. 財産の大部分が不動産
  7. 事業をしている
  8. 特定の相続人に多く財産を残したい
  9. おひとりさま・相続人がいない
  10. 相続人が多い、または疎遠な相続人がいる

一つでも当てはまったからといって、必ず遺言書が必要というわけではありません。

まずは、ご自身の相続人が誰になるのか、どのような財産があるのか、そして誰に何を残したいのかを整理することから始めてみてください。

はいしま行政書士事務所では、遺言書の作成についてのご相談を承っています。

「自分の場合、遺言書を作った方がいいのだろうか」

という段階でも構いません。

家族構成や財産状況、ご希望を伺いながら、遺言書を作成する必要性も含めて一緒に整理いたします。

※本記事は一般的な情報を提供するものであり、個別の事案について法的判断を示すものではありません。相続関係や財産状況によって必要な対応は異なります。

参考リンク

遺言書作成について詳しく知りたい方へ

遺言書は、家族構成や財産の内容によって、適した作成方法が異なります。

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